2025/09/24
NEMO OMEN MATCH

Gun Professionals 2017年7月号に掲載
ARライフルも今や300Win Magモデルが登場している。ロングレンジスナイパー、およびロングレンジハンティングに最適と思われる300Win Mag ARの実力はどれほどのものなのだろうか?ハイエンドARメーカーとして知られているNEMO ARMS のOMEN Matchをテストする
故ユージン・ストーナー氏もAR系ライフルに口径300Win Magバージョンが加わるとは想像も出来なかったに違いない。そしてまたAR/M16からM4に進化したものの、基本的に同じARデザインのモデルが開発から60年後の今日で米軍制式アサルトライフルとして使用され続けるとは思いも寄らなかったはずだ。コマーシャルマーケットではブラックライフルの異名をもつAR/M4系スポーツモデルが飛ぶように売れ、いまやセミオートライフルとして米国銃器史上、空前の売れ行きとなっている。一時期、販売に陰りが出たものの、低価格化で再び盛り返してきた。価格破壊現象と言えないこともない。これはメーカー乱立と大きな関係がある。以前にも触れたがAR/M4スポーツモデルの発売元は、大手メーカーからガレージ並の工場も含め数え切れないほど存在する。メーカーといっても、その実態はパーツを購入して組み立てただけというレベルも多い。
生き残りをかけたビジネスとなると、知名度のある有名ブランドは有利だ。低価格化競争はメーカーにとっては利益減であり、好ましくない成り行きだが、購買層が広がることは良いことだ。AR 5.56mmならベースモデルで$500以下という製品も現れている。
5.56mmモデルは大いに普及したものの、AR10ベースの308モデルなどは伸び悩んでいる。その原因は3つある。アモが5.56mmより高価でリコイルが大きい、銃自体の価格設定が5.56mmより50%前後高く、しかもAR系カスタム7.62mmとなると$4,000-5,000が相場となっている。
そして数年前、ついに5.56mmバージョンより二回りも大きい300Win Mag仕様のARが登場した。本誌でも2014年4月号のSHOT SHOWリポートで筆者がご紹介しているので、ご記憶の読者もおられるはずだ。
308のAR系ライフルを使うハンターが昨今多くはなってきたが、ブレーキもかかっている。センターファイヤー中堅の308でもハンティング用となると汎用性で劣る。この点では同じ軍用カートリッジといえど、.キャパに余裕のある30-06の方が汎用性では数段、勝っている。308はカートリッジが短い分、銃もコンパクトに作りやすいというメリットもある。これをベースとした260Win、243Winなど目的に特化した派生カートリッジもあるのだが、特化すると汎用性は更に劣る。
結論を言えば308Winをどうこね回そうが、ケースキャパからきた限界がある。要するにムース、エルク、ブラウンベアを相手とするには、とてもじゃないが力不足は免れない。判ったようなことを書いている筆者だが、鹿より大きいゲームハンティングの経験はないのだ。申し訳ない。本誌読者の中にはビックゲームハンティングの体験者は多いだろう。そんなハンター諸氏なら、.308Winの限界は釈迦に説法だ。
300Win Magモデルの製造販売元のひとつが、アイダホ州のNEMO社だ。日本ではあまり聞きなれないブランド名かもしれないが、米国ではハイエンドARメーカーとして知られている。社名のNEMOはNew Evolution Military Ordnanceの頭文字を
とったものだ。名前からも何やらミリタリーぽい匂いがする。今回入手したのは価格から言えば同社製品の準トップザラインであるOMEN MATCH 300Win MagでMSRP(メーカー希望小売価格)は$5,650だ。
同社トップザラインであるWATCHMAN $7,275との違いは、バレルの長さ(24”)とカーボンファイバーで包んだ通称カーボンファイバーバレルとの違いだけで、内部構造はほぼ同一のものだ。口径により、それぞれいろいろなモデルがあってそのすべてを紹介するとなると、かなりのスペースをとられるので、ここでは300Win Mag モデルに焦点を絞る。
300Win Magだけでも、OMEN WATCHMAN、OMEN MATCH、OMEN ASPと基本バージョンが3種ある。バレルは一番短いASP 15.5”から22”、24”と合計3種類だ。ASPはバットストックがMagpul MOEだが、他のモデルはMagpul PRSが装着されている。
しかし特注で他のストックを組み合わせることも可能で、これはストックに限らず、他の部分も様々なコンビネーションでの組み立てることもできるのだ。
300Win Magとなったことで、ARの特徴である軽快性が全くなくなった。銃本体のみで5.49kg/6.8kg(スコープetc付き)の重さはハンパじゃない。これをハンティングライフルとして担ぎ山野を歩くとなるとかなりの体力が必要だ。昨今、筆者も含めての話だが、老人ハンターが多い猟場では、いくらミリタリースタイルにこだわっていてもアゴを出すこと間違いなしだ(笑)。
ともかくテストリポートモデルは重量、サイズから見る限りタクティカルライフルそのものとなっている。筆者もマグナム ハンティングライフル(ボルトアクション)は所有しているが、銃本体は4㎏チョイオーバーでしかない。ここにあるNEMO MATCHMANよりはるかに軽快で振り回しやすい。3発vs14発というマガジンキャパのハンディ?はあるが、猟場のゲームは撃ち返してこない。
OMENはハンティングライフルとして販売されているが、元はといえばスナイパーライフル300Win Magとして開発されたモデルだった。軍用として開発されたモデルは同時にハンティング用としても使えることは言うまでもない。ただ使いやすいかどうかは別の話だ。

300WinMag
朝鮮戦争の頃まで米軍のスナイパーカートリッジは制式ライフルM1ガーランド口径と同じ30-06だった。スナイパー用として、Lake City工廠製とか一般のボールとは少々異なる競技用に近いアモも存在した。その後、制式ライフルとなったのがM14口径7.62mm(308)である。ベトナム戦争中頃まで一部ではスナイパーカートリッジとして30-06がまだ使われていたが、M14の採用とともに米軍のスナイパーカートリッジも7.62mmNATOとなった。これもいろいろ種類があり一般のボールと異なった準競技用なるものが多数存在し、今も改良進化中だ。
7.62mmNATO(7.62mm×51)スナイパーライフルの最大有効射程は600m前後と言われている。過去のリポートでも触れたが、最大射程の事ではない。現在、米軍のみならず友好国軍のスナイパーライフル口径の主流は7.62mmNATOとなっている。かつて7. 62mm×51の命中精度(グルーピング)は30-06に勝ると言われたものだが、今日、アキュラシーに詳しいシューターでこれを信ずる者は少ない。30-06の欠点は7.62mmNATOに比較、カートリッジの寸法が長い事だ。長さ/キャパの増加による有効射程延長が10%前後程度じゃ不十分、長い分、銃の重量増加とかサイズとかデザインする上でのデメリットもある。7.62mmNATOとは別に特殊用途用として7.62mmNATOを性能で大きく上回る新たなカートリッジの模索は進められてきた。米国は射撃王国、この手のロングレンジカートリッジは市場にゴロゴロしている。わざわざ開発する必要性もなく?適当と思われるものをピックアップするだけで事足りる。口径30前後に絞るなら7mmRem-Mag、30-338、300Win Mag、300Weatherby Mag、338WinMagなどが上げられる。既に述べたように軍用としてなら命中精度、威力だけでなくカートリッジ形状からくる連発機構の対応性なども考慮しなければならない。となると300Weatherby Magは圏外だ。そして選ばれたのが300Win Magだった。


