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2024/12/04

【KINIFE DIGEST WEB SPECIAL SIGHT】書籍『刃物の街・関から世界へ ナイフ作家・松田菊男』発売決定!!

 

 

 こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。
 肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいていますが、ホビージャパン社からは、主に刃物に関するムックや書籍を出させていただいております。
 そんなご縁もあり「刃物専門編集者」として、アームズウェブであれこれ紹介させていただこうと思います。

 

日本を代表するナイフ作家“菊”さんの半生記!!

 

 書籍『刃物の街・関から世界へナイフ作家・松田菊男』がいよいよ12/5から発売となる。

 


 著者としては、ぜひとも手によって読んでいただき、松田菊男という人物、キクナイフの魅力、さらには日本のものづくり文化の豊潤さを感じ取っていただければと願う次第である。
 ここでは、書籍の中から「序章 少し長い前書きにかえて」を抜粋、再編集してお届けする。
 お時間ある際にぜひ、ざっとお目通しいただければ幸いです。

 

 

序章 少し長い前書きにかえて リメイク版


「おう、よう来たなあ、まあゆっくり見ていってよ」
   KIKU KNIVES(キクナイフ)のショールームに入るなり、そう声をかけられた。

 

 

 声の主は松田菊男。
 いつもと変わらぬ人懐っこい笑顔に誘われるように、筆者は奥へと進みテーブルに並んだナイフを見比べた。
 ここは、岐阜県関市。
 毎年10月に市を挙げて開催される「刃物まつり」の真っ只中であり、松田が代表をつとめるキクナイフもそれに合わせて工房に併設したショールームで、展示販売を行っていた。入手困難なキクナイフの製品が数多く販売される貴重な機会とあって、ショールームは賑わっていた。
 駐車場に何台も停められているクルマのナンバープレートを見る限り、このチャンスにお目当ての作品を手に入れようとした人たちが全国から集まっていることが見てとれた。
 松田菊男はキクナイフの創業者にして、現在もデザインから制作まで自ら陣頭で行っている人物である。
 キクナイフの製品が、国内外で人気となって久しい。
 彼らの販売サイトでも、松田が全幅の信頼を寄せる山下善啓が経営する山下刃物店が展開する販売サイトでも、ほぼ全ての製品が売り切れとなっている。
 ならばと全国各地で開催されるナイフショーに赴くと、大勢の人たちがキクナイフのブースに並び、ほとんどの場合、初日の午前には売り切れてしまう。

 


そんな松田が生み出す作品は、容易にジャンル分けできない。

 

 作家ひとりでつくり出していくカスタムナイフではない。かといってファクトリー製品とも言いきれない。大量生産を旨とする彼らと異なり、松田たちは少量多品種をモットーとしているからだ。近年数を増やしている、デザインは自前で、鋼材の削り出しなどの加工を外部に委託するミッドテックが、幾分か近いかもしれない。だが、ほとんどの工程を、息子の昌之や孫の聖也たちとともに自社工房で行っている時点で異なる存在となってしまう。
 要するにファクトリーとしての技術力と、作家としてのデザイン力が共存した独特の存在なのである。
 そして、キクナイフの作品の個性をいわゆる「用の美」と呼ばれる、機能性を追求した先に生まれる美しさに押し込めることはできないだろう。ファンタジーと呼んでもいい機能性に直結しない格好の良さが、松田が生み出すナイフには存在するからだ。
 実用性と芸術性、技術力とデザイン力、親しみやすさとタフネスさ、現実と幻想…。一見相反する要素が無理なく共存する。そのバランスの妙こそが、キクナイフの魅力の根源である。

 

 

「ものづくりを続けていくんなら、職人を大事にせんとあかんと思うんや」

 

 ものづくり産業の衰退という課題に直面している日本において、キクナイフでは松田を筆頭にその息子と孫、三代が仕事に携わっている。
「そりゃあ、昌之や聖也が仕事を継いでくれたのは、嬉しいよ。だからこそ『いい形』で残していかなあかんと思うわな」
 父の代から続く、刃物の研削や研磨を行う通称「研ぎ職人」として、関の刃物産業の根幹を支え続けてきたという強烈な自負。そしてナイフ作家であり、経営者ともなったことで生まれた、次の世代に「ものづくり」の伝統を正当に引き継いでもらいたい、という強い願い。
 それらが相まって、松田は、明確でブレない意思を持って、ここまで進んできた。

 キクナイフには、文化としての継承まで見据えた「ものづくり」を可能にするメソッドが存在する。そのメソッドは、松田という個人の腕や人柄によって築き上げられたところが多いかもしれない。だがその圧倒的な「属人性」の奥底には、誰もが再現できるようなシンプルな心構えのようなものが、必ずある。そこに迫っていくことで、今を生きる我々にとって大事なテーマが浮かび上がってくるだろう……。

 


 そう考えるようになった筆者は、いつしか、松田の半生記を書きたいと思うようになった。
「うん、お願いするわ。ヨシと岩ちゃんにも話、聞いたって」
 松田は、企画書をひと目見ただけで快諾してくれた。
 彼に加えて、名前のあがった山下善啓と岩原勝秀というふたりのキーマンを交えて、松田菊男とキクナイフの「これまで」を丁寧になぞっていきたい。
 職人でありながら、作家になろうと真剣に「ナイフ」に向き合ってきた人の物語には、ものづくり大国に生きている私たちの「これから」を考えるためのヒントが、きっと、あるはずだ。
 改めて松田のもとへ訪れる日々が始まった。

 

 

書籍『刃物の街・関から世界へ ナイフ作家・松田菊男』

 

 

定価: 2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN978-4-7986-3655-9
A5判 170ページ
服部夏生・著 ホビージャパン・発行

 

*ナイフはルールを守って安全に使用しましょう。

 

TEXT:服部夏生

 

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