実銃

2024/12/22

ガラスの名銃。環境さえ整えば高パフォーマンスのサブマシンガン

 

 

この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。
数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。
発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。
時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。
その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 

不運で失敗の烙印を押されたサブマシンガン

 

 トンプソンM1A1は第二次世界大戦でアメリカ軍が使用して有名になったサブマシンガンだが、大戦初期の急激な需要の増加により供給不足が発生し、その穴を埋めるためにアメリカ海兵隊に採用されたサブマシンガンがレイジングM50である。

 

ハイダーはマズルジャンプを制御する効果の高い大型のコンペンセイターが装備され、トンプソンより高い精度を可能にした

 

 1938年に戦争の気配を感じたこのモデルの開発者であるレイジングが、トンプソンに対抗して開発し、戦争直前の1940年、トンプソンより安価で軽量なうえ、命中精度も優れたサブマシンガンとして完成させた。しかし、この銃は汚れに弱く、頻繁な整備と注油をしないと作動不良を起こし、加えてマガジンの相性が悪いと給弾不良を起こした。M50はアメリカ陸軍では採用を見送られたが、アメリカ海兵隊では他に適切なサブマシンガンがなかったことから採用された。

 

チャージングハンドルはボルトに連動して動く構造のため怪我をしないようにフォアアーム下部に埋め込まれるように配置されている

 

 結果として最前線では作動不良が頻発して不評を買い、他のサブマシンガンの生産が軌道に乗ると交代させられた。その後は後方勤務や国内の基地警備、法執行機関で運用されると本来の実力を発揮した。M50は使用環境により欠陥品と呼ばれた、不運なサブマシンガンであった。

 

 

 

レイジングM50 短機関銃

  • 全長:889mm
  • 口径:.45ACP
  • 装弾数:12発/ 20発
  • 価格:¥440,000
  • 商品番号:【8524】

 

 

先進的な設計を実現した名銃

 

 レイジングM50は欠点の多い銃であったが、この時代のサブマシンガンがオープンボルト方式を持つものばかりだったのに対し、M50は命中精度の点で有利なクローズドボルトを採用するなど時代をリードする設計であった。設計者のレイジング自身がエキスパートシューターであったことと、製造メーカーのハーリントン&リチャードソン(H&R)が精密射撃用の銃器を軍に納めていたことにも関係しているだろう。軍への需要を伸ばすのに安くて精度の高いサブマシンガンは魅力があったに違いない。

 

セレクターはスライド式で素早く切り替えられるが、夜間の視認が難しく、兵士からは不評を買った

 

 しかしレイジングM50の製造にはハンドメイドでの調整が必要であり、現場で簡単な修理を行おうとしても交換部品が組み込めない事態が発生してしまった。特徴であるクローズボルトシステムは、ボルトがレシーバーの窪みに傾きボルトがロックされるのだが、汚れや異物がレシーバーの窪みに入り込むとボルトが完全にロックされず作動不良を起こす可能性が高いことから、頻繁に清掃をするか銃をカバーする必要があった。

 

破損防止のガードがないサイトは大戦初期の銃器では一般的だ。4段階高さの調整ができるだけの簡素な造りである

 

 この現場での信頼性においてはトンプソンには大きく及ばずレイジングは前線の兵士から敬遠されてしまった。これらの問題は、生産を急ぎ、すぐに戦場に投入することに大きな重点が置かれ、部品を共通化するための設計や製造プロセスを再設計する時間がなかったことが原因とされる。

 

トリガーガードは通常レシーバー側にあるのだがレイジングではストックに直接ネジ留めされている

 

 実戦での評価を落としたレイジングM50はアメリカ軍では見切りをつけられたが、同じ連合国のソ連やイギリスなど、兵器不足の国にも送られた。戦中はトンプソンの生産がすべて軍用にまわったことで、サブマシンガンを求める法執行機関にとって数少ない選択肢となったことはレイジングM50にとって幸運であった。

 

マガジンリップの変形防止のためマガジンの側面にリブを付けて20発から12発のシングルカアラム方式に変更された

 

 法施行機関では適切にメンテナンスされ、清潔な環境で使用されたので正常に機能し欠陥銃ではないことを証明した。H&Rはレイジングでは失敗したが、軍に生産能力の高さを示しライフル製造メーカーとしての地位を確立していった。

 

 

SHOP DATA(お問い合わせ先)

シカゴレジメンタルス

●東京上野本店
〒110-0005 東京都台東区上野1-12-7 Theシカゴビル
TEL 03-5818-1123 FAX 03-5818-1124
営業時間 12:00~19:30 年中無休

 

●大阪店
〒541-0048 大阪府大阪市中央区瓦町1-5-14 瓦町一丁目ビル4階
TEL 06-6223-9070 FAX 06-6223-9071
営業時間 12:00~20:00 年中無休

 

TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:ビレッジワン

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年1月号に掲載されたものです。

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×