ポーランド軍最精鋭特殊部隊への入隊テストを再現した障害物レース「GROM CHALLENGE 2024」

 

最精鋭特殊部隊への登竜門を体験

 

 

 中欧の国ポーランドにて今年の9月、軍事企業「GROM GROUP(グロム・グループ)」が主催する障害物レース「GROM CHALLENGE(グロム・チャレンジ)2024」が開催された。同国において対テロ任務にも従事する最精鋭特殊部隊「GROM」への入隊テストの内容がそのまま反映された、過酷なレースの模様をご紹介する。

 


 

スタート地点から一斉に走り出す参加者たち。軍人、警察官だけでなく一般人もいて、女性の参加者も多く見られた

 

鉄条網の下、ぬかるんだ地面を泥だらけになりながら匍匐前進する

 

最精鋭特殊部隊GROMの入隊テストを再現


 首都ワルシャワから車で約1時間半。ベラルーシやリトアニアと国境を接する、ポーランド北東部のポドラシェ県にあるチェルボニ・ブルの訓練場にて、2024年9月14日に軍事企業「GROM GROUP(グロム・グループ)」主催の障害物レース「GROM CHALLENGE(グロム・チャレンジ)2024」が開催された。

 

チェルボニ・ブルの訓練場に設定されたGROM CHALLENGE 2024のコースマップ。雨の影響からコースは若干変更されたが、増水や泥濘などのためより過酷となった


 このイベントは、ポーランド軍特殊部隊「GROM(グロム)」への入隊志願者に課せられるテスト(気力、体力、チームワーク)を、そのままレースに仕立てたものだ。

 

 参加資格はポーランド国籍を持つ者、またはその関係者(外国人も可)で、民間人でも参加できる。

 

塀を乗り越えていく。軍事教練ではおなじみのシーンだろう

 

最大斜度50度の崖を10往復昇降。雨の影響で滑りやすくなっており、体力を削られる

 

腰まで水に浸かる沼地の渡渉。参加者はまだ楽しそうな表情を見せている

 

バックパックが濡れないように掲げる参加者。なお、参加者が着用する赤いシャツは、ポーランドのギアメーカーとしておなじみのDirect Actionの提供によるもの


 レース内容は以下のとおり。まず参加者は、2人1組のバディを組む。コースは30kmのランニングコースとなっており、各チェックポイントに点在する障害をバディで協力しながらクリアしていく、というものだ。

 

バディで協力して重さ50kgの弾薬箱を運ぶ

 

過酷なコースが待ち受けていたGROM CHALLENGE

 

 障害を列挙していくと、牽引ワイヤー(戦車用)運び、土嚢(30kg)運び、弾薬箱(50kg)運び、タイヤ(装甲車用)転がし、相棒を担いでの移動、水路移動&水路トンネル、沼地(腰までの深さ)の渡渉、崖(最大斜度50度)の昇降10往復、小銃射撃、ロープ渡り、匍匐前進、渡河、深薮地、人工アスレチック…など。これらをクリアして、6時間以内にゴールしなければならない。

 

コース中には小銃による標的射撃も。使用銃はポーランド軍の新型の5.56mmアサルトライフル、FB MSBS GROT(グロット)が使用された。M-LOKハンドガード採用のモジュラーライフルで、MASADAや20式5.56mm小銃と似たフォルムだ

 

バディで交互に担いで移動する。男女問わず、体力がものをいう


 「GROM CHALLENGE 2024」では、開催前日まで降り続いた大雨の影響で川や沼地、水路が増水したためコースが25kmに短縮された。それでも、沼地や崖、斜面などコースがかなり荒れていたため通常時よりもタイムロスが多く、時間切れで失格になる選手が相次ぐなど、レースの過酷さはこれまでにないレベルとなった。

 

 

再び腰まで水に浸かる水路を進んでいく


 なお、今回はアジア系としては初となる、日本人が2名が出場している。しかし、大荒れのコースに手こずってしまい、あと少しというところでタイムオーバーとなってしまったのは残念なところ。来年も再チャレンジし、ゴールを目指すとのことだった。

 

過酷な障害をバディで乗り越える

重量のある装甲車用のタイヤをバディで協力して転がしていく。短時間でクリアするためには2人の協調が欠かせない

 

ポーランドの国防事情


 第二次大戦においてドイツおよびソ連に国土を蹂躙され総人口の約1/5を失うという悲劇に見舞われたポーランドは、戦後冷戦期にはソ連を中心とする東側諸国に属していたものの、1989年の東欧革命に伴い非社会主義政権が成立し民主化。1999年にはNATOに、2004年にはEUに加盟した。それゆえ、ポーランド軍はNATO標準の装備に更新しつつあるものの、いまだ東側装備の名残が見られる。

 

続いてこちらも重量物である戦車用の牽引ワイヤーを2人がかりで運んでいく

 

訓練用ラバーガンを携行しての匍匐前進


 2009年には徴兵制が廃止されてポーランド軍は志願制に移行し少数精鋭化を図りつつあるが、2014年にポーランドの隣国ウクライナとロシアとの間で紛争が発生。その影響もあり2017年には陸海空軍とは別の独立軍種として、非職業軍人を主体とする領土防衛軍(Wojska Obrony Terytorialnej)が創設された。

 

30kgの土嚢を作り運んでいく。ゴールまではあとわずかだ

 

 そして2022年に始まり今も続くロシアのウクライナ侵略は、ポーランドの安全保障環境にも深刻な影響を与えている。これらがポーランド国民の国防意識を高めていることは、歴史や地政学を考慮すれば当然のこととも言えるだろう。

 

 

制限時間内にゴールに到達した参加者には「GROM CHALLENGE 2024」のメダルが授与された。レースをクリアした参加者たちも、まだ余裕のありそうな者、疲労困憊でへたり込む者と様々


特殊部隊「GROM」と軍事企業「GROM GROUP」とは


 ポーランド軍の特殊部隊はいくつか存在し、こちらも独立軍種として2007年に創設された「特別軍(Wojska Specjalne)」の隷下にある。その中でも対テロ、直接行動、救助任務などに従事する特殊部隊のひとつが「GROM(ポーランド語で「雷鳴」を意味する)」で、同国特殊部隊の最精鋭として知られている。

 

会場では軍やメーカーをはじめ、バンド演奏や飲食の出店もあり、テレビ取材も来ていた。こちらは特殊部隊「GROM」のブースで、実際に使用されている装備が展示され注目を集めていた

 

今回は日本人2名が参加。残念ながらわずかな差で時間内のゴールはならず、来年の再チャレンジを誓った

 

GROMで使われる小火器の展示。バレットM82A1やアキュラシー・インターナショナルAW、FN MINIMI、HK416など西側装備が多い。手前の黒い筒はAntos 60mm迫撃砲で、射程は1km程度ながら重量は約5kgと小銃並みに軽量なのが特徴


 そして「GROM GROUP」は、そのGROMの元兵士によって2010年に設立された軍事企業である。ポーランドでは上記のように軍がコンパクト化されていることもあり、軍を支えるための多様な関連企業が存在するのである。

 

ヘルメットやアーマー、化学防護装備などを製造するポーランドのメーカーMASKPOLのブースには、ポーランド陸軍の歩兵装備が展示。同社は「MAPA Tactical」ブランドのタクティカルギアも展開している

 

GROMグループの麗しい日本人マスコットガールズ。乗っているのは装甲兵員輸送車SPG-2 Opal(旧ソ連製MT-LBのポーランド版)

 

こちらはポーランド陸軍の8輪装甲兵員輸送車KTO Rosomak。陸上自衛隊でも近年採用されたパトリアAMVのポーランド版だ


 GROM GROUPは主な業務としてポーランド軍兵士の訓練や軍事施設の警備、要人警護などを手掛ける半官半民の企業で、特殊部隊を含め軍人や警官の経験を持つ優秀なスタッフを多数擁しているほか、海外進出に伴い日本人を含む外国人スタッフも在籍している。また、職位に応じて軍と同様の階級が与えられているのも特徴だ。

 

会場ではポーランドの各種装備展示も

「ラドム造兵廠」や「FB RADOM」として知られるポーランドの銃器メーカー、Fabryka Broni Łucznik(ファブルィカ・ブローニ・ウーチュニク)のブース。AK系のwz.1988をNATO標準の5.56mm×45仕様に改めたポーランド軍制式小銃、wz.1998 Beryl(ベリル)の各種バリエーションも見られた

 

こちらのテーブルではGROTの各種バリエーションやVIS100ピストル、ストライカーファイア&ポリマーフレームの新型拳銃MPSなどを展示


 GROM GROUPの主要な2部門のうち「教育部」は、軍や警察の訓練を中心に企業向け研修や調査、民間人向けのトレーニングなどを手掛けている。そして「警備部」は軍事施設や港湾、船舶等の警備に加え、政府要人の身辺警護なども手掛けており、その活躍の場は国内だけでなく中東や東南アジア地域などにも広がり、事業を拡大しつつある。

 

GROM GROUPの上級将校Tomasz Kowalczyk氏(写真左)とWojciech Grabowski氏(写真右、元大統領警護隊)

 

GROM GROUPのインストラクターたち。写真左からJacek先生(射撃)、Wojciech先生、Łukasz 先生(近接格闘)

 

7月に立ち上げられた新部門GROM Group Japanの責任者・Yoshinobu Nakamura氏(通称:Nobby)もGROM CHALLENGE 2024に参加。彼は上級狙撃手の資格を持つスナイパーでもある

 

この記事の筆者「Captain Katz」。ヨーロッパの警備組織を経て現在GROMグループに所属。世界各国の危険地域や紛争地域に、主にセキュリティガードとして派遣され活躍している

 

Text:Captain Katz/アームズマガジンウェブ編集部

Photos:GROM GROUP

日本でのお問い合わせ先:info@grom-japan.com

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年1月号に掲載されたものです。

 

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