ミリタリー

2024/11/30

陸上自衛隊とフランス陸軍が実施した日仏共同訓練「Brunet Takamori 24」

 

アジア太平洋地域における日本とフランスの連携を強化せよ

 

 陸上自衛隊第9師団とフランス陸軍第6軽機甲旅団はこの9月、東北各地の陸自演習場や駐屯地を中心に日仏共同訓練「ブリュネ・タカモリ(Brunet Takamori)24」を実施した。日本国内において日仏2国による共同訓練の実施は初であり、この訓練は両国間の安全保障体制をより深化させたと言える。訓練課目には実弾射撃も含まれ、フランス軍部隊が日本国内演習場にて射撃を行なうという珍しいシーンも繰り広げられた。この訓練の模様を、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之がレポートする。

 


 

王城寺原演習場内の市街地戦闘訓練場にて、前方を警戒しつつ、建物の壁に沿うようにゆっくりと前進するフランス陸軍歩兵と陸自普通科隊員。仏陸軍側は第6軽機甲旅団より派遣され、隷下部隊の詳細は明らかにされなかったが、パッチ等から第2外人歩兵連隊が含まれていたのを確認できた

 

 

 2024年9月8日から20日にかけ、王城寺原演習場(宮城県)および岩手山演習場(岩手県)等において、陸上自衛隊とフランス陸軍による実動訓練「ブリュネ・タカモリ」が実施された。同訓練の第1回目は昨年仏領ニューカレドニアにて行なわれ、今回は2回目。日本に来たフランス軍と言えば、2021年5月に仏海軍の強襲揚陸艦「トネール」とフリゲート「シュルクーフ」の2隻が佐世保に寄港しており、同月11日から17日まで海上および陸上にて、日仏米豪4カ国軍による共同訓練「ARC21」が実施された。

 

 その際は九州の霧島演習場にて日仏部隊が共同し、ヘリボーン訓練から市街地戦闘訓練までの一連の流れが報道公開されている(本誌2021年8月号に筆者のレポート掲載)。「ブリュネ・タカモリ」はそのARC21に続くものであり、日本国内において日仏2カ国の陸軍種による共同訓練はこれが初となる。

 

HK416Fをかまえるフランス兵。ハンドガードにはグリップポッドが装着されていた。第6軽機甲旅団の歴史を振り返ると、湾岸戦争(1991年)や対イスラム系武装組織制圧のためマリ共和国等に派遣(2013年)されるなど、実戦経験を持つ

 

窓から出てきたフランス兵。自分たちの迷彩服の上から、レーザー交戦装置バトラーが装着された陸自迷彩のヘルメットカバーやベストをまとうスタイルは、日本での訓練に参加する外国軍兵士にはいまや定番となっている

 

 訓練名にある「ブリュネ」とは19世紀、江戸時代末期にフランスの軍事顧問団の一員として来日したフランス陸軍士官ジュール・ブリュネに因んでいる。幕府伝習隊にフランス式の軍事技術等を伝え、戊辰戦争においては自身も旧幕府軍側に立って戦い、帰国後陸軍参謀総長にまで登りつめた。映画『ラスト サムライ』(2003年)にてトム・クルーズが演じた主人公のモデルになった人物だ。

 

 一方の「タカモリ」は幕末から明治にかけて最も有名な偉人の一人であり、帝国陸軍においては初の陸軍大将となった西郷隆盛に因んでいる。フランスの騎士道と日本の武士道を融合させるという意味を込め、日仏それぞれの軍人の名を掛け合わせて訓練のコードネームとしたのである。

 

 

PRS(Personal Reconnaissance System:個人偵察システム)としてTeledyne FLIRが製造する「ブラックホーネット」を飛ばし、偵察するフランス兵。ヘリコプター型のマイクロドローンで、写真の通りまさに手のひらサイズ。市街地戦闘では重宝するだろう

 

 日本側は陸自第9師団(青森県)から第39普通科連隊を中核とした師団隷下部隊約100名、フランス側は陸軍第6軽機甲旅団(ガール県)から外人部隊の兵士を主体とする約50名が参加した。

 

 フランス陸軍が遥々日本までやって来たのには大きな理由がある。フランスは南太平洋に領土または特別共同体となる地域を抱えており、中国による覇権主義的海洋進出は決して他人事ではないばかりか、脅威となっている。それゆえ、フランスはNATO加盟国の中でも「自由で開かれたインド太平洋」具現化における中核となっている。仏領ニューカレドニアには約2,000名規模の陸海空軍を駐留させているほか、フランス本国からも度々艦艇や航空機を太平洋地域に派遣している。

 

制圧した建物から出て素早く前進する

 

訓練に参加するフランス陸軍のチームには、連絡員として1名の陸自隊員が同行していた。自分たちの部隊がこれからどのように行動するかを説明しているようだ


 今回来日した仏陸軍第6軽機甲旅団は緊急展開が可能な即応部隊であり、世界中どこへでも駆けつけて戦うことができる能力を有している。同旅団は湾岸戦争に加え、マリ共和国におけるイスラム武装勢力とのゲリラ戦などにも参戦して実戦経験豊富であり、外国人兵士の比率が多いのも特徴だ。太平洋地域で何かあれば、間違いなく中枢となって戦う部隊となるだろう。

 

 この訓練の目的は、対ゲリラ・コマンドウ作戦に係る戦術技量の向上を図るためであり、中隊規模以下の戦術行動訓練および実弾射撃訓練が実施された。

 

扉の奥から前方を警戒する日仏の隊員。フランス兵のHK416Fにはブランク(空砲)アダプターが装着されている

 

敵の武装勢力につかまっていた仲間を助け出す陸自部隊。陸自部隊及びフランス陸軍部隊は、協力はしつつもそれぞれ別々に行動していた


 訓練は大きく2つのパートに分かれており、8日の訓練開始式の後、9日~14日までが機能別訓練となった。ここでは、共同指揮所訓練、第1線救護訓練、戦闘射撃訓練(各個戦・分隊戦闘射撃訓練)、市街地戦闘訓練、ヘリボーン訓練、対ゲリラ・コマンドウ訓練が行なわれた。さらに1日おいて、今度は16日から19日までが総合訓練となっており、ここでは一連の状況下での対ゲリラ・コマンドウ訓練(実弾射撃含む)が行なわれた。そして20日には訓練修了式があり、全日程が終了した。

 

岩手山へ向け、前進しつつ射撃をしていく。日本側がB-1射場、フランス側がB-2射場を使い、それぞれ異なる敵へ向けて射撃訓練を実施した

 

訓練開始と共に待機線から飛び出し、射場へと進出するフランス陸軍部隊。この時点ではまだ銃本体にマガジンは装着されていない


 報道公開されたのは総合訓練のパートだった。その内容は、王城寺地区と岩手山地区に敵ゲリラ部隊が活動している模様との状況が与えられ、陸自部隊とフランス陸軍部隊が共同して敵ゲリラ部隊を捜索・撃滅する、というもの。

 

敵の陣地に向け、東北方面特科連隊の155mmりゅう弾砲FH70が次々と砲弾の雨を降り注ぐ。今回は計4門が用いられた

 

フランス陸軍では2017年頃より従来の主力小銃FA-MASの更新を開始し、HK416A5のフランスバージョンであるHK416Fに置き換えていった。レシーバートップには定評のあるAimpoint Comp M5ドットサイトを搭載。そのLRPマウントとロアレシーバーには、装備品管理システム「VIGIFELIN」のタグが貼り付けられているのがわかる。彼らはF3ヘルメットおよびF3戦闘服に加え、プレートキャリアタイプのSMB(Structure Modulaire Balistique)ボディアーマーなど、現用フランス歩兵の一般的な装備を着用。右の兵士のアーマー背面には格子状のキットプレートが装着されている

 

 まず、王城寺地区にて敵部隊の捜索が行なわれ、最終的に市街地に潜伏する敵ゲリラを撃滅するというシナリオだった。王城寺原演習場内には市街地戦闘訓練場があり、こちらを使い実戦的な訓練が行なわれていった。敵の捜索には日仏部隊ともドローンを活用した新しい戦い方を演練。また戦闘中に陸自隊員が敵の人質となり、救出する場面もあった。


 フランス陸軍部隊は、実際にゲリラ戦の経験を持っている。陸自の隊員たちには、そのノウハウを得ようと真摯に学んでいる姿勢が見て取れた。

 

フランス兵によるHK416Fの射撃シーン。薬莢回収用に大きな網を使っているが、それでもこうしてたまに外へと飛び出し、キャッチできないものもあった。右腕のパッチは第2外人歩兵連隊所属であることを示している

 

総合戦闘射撃開始前に待機するフランス兵たち

 

 そして敵は岩手山地区へと移動した。そこで、日仏両部隊は陸自第9飛行隊及び第6飛行隊、東北方面航空隊のUH-1Jおよび第1ヘリコプター団のCH-47JA等に分乗し、空中機動作戦を展開。敵ゲリラ・コマンドウとの戦闘との想定で、岩手山演習場内にて総合戦闘射撃が行なわれた。

 

こちらのフランス兵は11インチバレル仕様のHK416F-Cを装備していた。他のフランス兵が持つ標準的な14.5インチバレル仕様はHK416F-Sと表記されている。左肩にはフランス国旗と共に外人部隊を意味する「LEGION ETRANGERE(レジョン・エトランジェール)」のパッチが付いている

 

陸自の狙撃手が対人狙撃銃M24SWSで「高価値目標への射撃」を行なう。ここで言う高価値とは、敵の指揮官や階級の高い士官などを指し、敵部隊の混乱誘発を意図している


 攻撃準備として、UH-1Jからのドアガン射撃、狙撃手による射撃に加え、第9偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車による射撃を実施。後方からは前進支援射撃として砲迫の射撃が行なわれていく。


 こうして敵の中核を消耗させたところで、日仏の小銃小隊が前進。敵が出現すれば射撃し、撃滅させる。16式機動戦闘車もともに前進し、105mm砲で射撃していった。

 

第9偵察戦闘大隊の16式機動戦闘車(16MCV)が火力支援を実施した。同大隊は2024年3月に新編されたばかり。16MCVは2輌が参加し、連装銃(74式車載7.62mm機関銃)や105mmライフル砲を使い、敵部隊を攻撃していった

 


 こうしてすべての訓練が終了した。仏陸軍第6軽機甲旅団長のヴァランタン・セイラー准将は記者会見において、すでに来年の開催も決まっており、今後はさらに規模を拡大していく方針であることを明かした。そして、「日本とともに地域の緊張が高まることを抑止することに貢献している。今回の訓練は日本とフランスの協力強化の一端をなすものだ」と締めくくった。


日仏による安全保障上の強固な連携は、日米同盟に準ずる存在となりつつある。

 

写真左から記者会見を行なう仏陸軍第6軽機甲旅団長のヴァランタン・セイラー准将と陸自第9師団長の藤岡史生陸将

 

訓練終了後、セイラー准将を囲んで記念撮影するフランス兵たち。手前の兵士はマークスマンとしてFN SCAR-H TPRを装備していた。搭載するショートスコープはSchmidt&Bender 1-8x24 PM II ShortDot Dual CCで、フランスらしくPGM Precision製のピカティニーバイポッドを装着している。腰のハンドガンはGlock 17 Gen5 FR(ポリマーフレームがコヨーテカラーのフランス軍仕様)で、Blackhawk T-Series L3Dホルスターに収めている

 

Text&Photos:菊地雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年1月号に掲載されたものです。

 

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