その他

2022/06/19

【コラム】ウクライナの戦場を考察する 第3回「ウクライナの対戦車戦闘-被攻撃側-」

 

ロシア軍コンボイのアンブッシュ対応

 

 ロシア軍のウクライナ侵攻については、ネット上でさまざまな考察がなされている。そこでArms MAGAZINE WEBの特別企画として、「月刊アームズマガジン」ライターであり、アフガニスタンでの実戦経験もある元アメリカ陸軍大尉、飯柴智亮がウクライナの戦場について考察。この第3回では第2回に続いてネット上で公開されている実戦の映像を例にとり、ウクライナ軍にアンブッシュ(待ち伏せ攻撃)されたロシア軍コンボイ(Convoy:車輌部隊、車列)の対応について解説する。

 

ロシア陸軍のT-90A主力戦車。T-72の派生型で、エンジン出力強化に加え爆発反応装甲(リアクティブアーマー)やミサイル防御システムの装備など、大幅な改良がなされている。乗員は3名。主砲は51口径125mm滑腔砲、副武装として12.7 mm重機関銃、7.62mm機関銃を持つ(Photo:笹川英夫)

 

歩兵操典・FM 7-8 Battle Drill #4-React to Ambush

 

 米陸軍のフィールドマニュアル(Field Manual:野戦教本、以下FM)に、歩兵の基本が書かれたFM 7-8がある。歩兵になると、ここに書かれている事は暗唱できるようになるまで徹底的に教育される。何事においても基本は重要である。相撲では横綱になっても四股(しこ)を踏むし、極真空手では全日本代表選手になっても基本稽古は欠かさず行なう。それと同じで米陸軍歩兵部隊では、FM 7-8に記されている基本に沿って常に訓練を行なっている。
 そのFM 7-8の中のBattle Drill(戦闘教練 *1)には、起こる可能性が高い状況に対してどのようなリアクション(対応)を起こすかが記されている。もちろん頭で理解するだけではなく、実際に何度も反復して身体に覚えさせる。筆者の場合はどちらかと言うと、まず意味も分からず反復訓練を繰り返し、だいぶ後になって説明されたように記憶している。つまり空挺部隊ではまず身体が自然に動くようになるまで徹底的に繰り返すのだ。そのBattle Drill の4番目が「React to Ambush:アンブッシュされた時のリアクション*2」である。
 基本的にFM 7-8は機械化歩兵部隊(歩兵戦闘車などに乗車して行動する歩兵部隊)におけるディスマウント(下車している状態)の歩兵小隊が対象だが、乗車した状態も含まれるのでそれを理解した上で話を進めてみたい。よく「教科書通りに…」という表現があるが、対アンブッシュを教科書通りにやると以下のような流れとなる。

 

  1. 第一発見者が敵に対する距離と方角を大声で全部隊に知らせる(無線機を通じて行なう場合は大声を出さない)。例:“ Enemy dismount? Three o’clock, 200m!(敵部隊、3時方向、距離200m!)”
  2. 1と同時に指揮官と運転手以外の全員が敵の方角に向けて制圧射撃(Suppressed Fire)を開始する。射撃開始と同時に自身を遮蔽物に隠す。遮蔽物がない場合は、その場に伏せて、プローンポジションで射撃を開始。
  3. 制圧射撃はまず敵のCSW(Crew Served Weapons:重機関銃、車載機関銃など)もしくは対戦車兵器に向けて行なう。それがクリアに見えない場合は、敵側の初弾によるバックブラスト(対戦車兵器などの発射時に発生する火炎や煙)を目印として、付近に有効弾を送り込む。
  4. 敵部隊が陣取るエリアに向けて、スモークグレネード(煙幕)弾を撃ちこみ(M203/M320・40mmグレネードの射手)、敵部隊の視界を奪う。
  5. 制圧射撃を続けつつ、味方のアサルト(攻撃)部隊にフランク(敵の側面に回り込んで攻撃)させ、必要に応じてシフトファイア(例えば側面を突かれた敵が正面から見て横方向に後退するのに応じて、射撃の方向を変える)を行なう。
  6. 指揮官とFO(Forward Observer:前進観測員)は敵部隊の正確な座標を10桁のMGRS (Military Grid Reference System:1m単位の高精度な軍用座標参照システム)で司令部に報告、火力支援を要請する。
  7. 敵部隊制圧後、指揮官はACE(Ammo、Casualty、Equipment:弾薬の残量、人員の損害、車輌・装備の損害)報告を司令部に送り、事後処理を行なう。

 

 もちろん、戦闘には不確定要素がつきもので、このようにすべて教科書通りになることはほとんどない。そのひとつが地形だ。手前味噌の話になるが、筆者がアフガニスタンのコナール県でアンブッシュを受けた時は、フランクも何もできかった。なぜならその際に断崖絶壁の道路を通過中で、かろうじてハンヴィー(HMMWV:高機動多用途装輪車)が通れる幅だったからだ。ガードレールなどはもちろんなく、ちょっとでもハンドル操作を誤ったら崖から落ちる。そして崖の下はコナール川で、アンブッシュしてきた敵は川の反対側にいた。つまり、その場で反撃する以外に生き残る道は無かったのだ。
 基本訓練でもドリルサージェント(Drill Sergeant:教練軍曹)に “ Remember, terrain always dictates!:覚えておけ、地形には絶対に逆らうな! ” とよく言われた。つまり、地形のせいで基本通りに動けない時は、無理に地形に逆らった行動をしてはならないということである。

 

(*1)Battle Drillには1から8まである。
1. Platoon Attack:小隊攻撃
1A. Squad Attack:分隊攻撃
2. React to Contact:接敵時の対処
3. Break Contact:撤退
4. React to Ambush:待ち伏せへの対処
5. Knock Out Bunkers:バンカー(堅固な陣地)の制圧
6. Enter Buildings/Clear Room:屋内への進入、クリアリング
7. Enter/Clear a Trench:塹壕への進入、クリアリング
8. Conduct Initial Breach of a Mined Wire Obstacle:障害物突破

それぞれの状況下において歩兵部隊が行なう基本動作が記されており、米陸軍の歩兵全員がこの動作を理解している。これは特殊部隊でも同様である。ちなみに特殊部隊が歩兵以外の他兵科出身者を嫌がるのは、このBattle Drillの訓練を受けていないという点が大きい。たしかに輸送科や補給科出身者でも、趣味でスパルタンレースやクロスフィットなどをやっていれば選抜訓練はパスするかもしれない。しかし、特殊部隊員に求められる資質は体力だけでなく、歩兵として優れているかどうかである。忘れてはならないのが、特殊部隊といえども歩兵(Special Forces Infantry)である、という事実だ。

 

(*2)アンブッシュには近距離と長距離の2種類がある。目安としては手榴弾が届く範囲が近距離で、それ以上は長距離。つまり、今回のような対戦車兵器を用いるアンブッシュは長距離となる。

 

ロシア軍のコンボイオペレーション

 

 

 第2回でもご紹介したこの映像は、ウクライナの首都キエフ北東20km付近で行なわれた戦闘である。ロシア陸軍の機械化歩兵部隊(戦車や歩兵戦闘車+歩兵などで編成された部隊のこと)のコンボイ(車列)に対して、ウクライナ軍の兵士がアンブッシュ(待ち伏せ攻撃)を仕掛ける映像だ。
 上記映像でアンブッシュを受けたロシア軍コンボイは20輌以上の戦車や歩兵戦闘車で編成され、強力な戦車砲や機関砲など恐るべき火力を備えていたために安心しきっていたのかもしれない。コンボイの移動スピードは遅く車間距離も短すぎる。まるで大名行列のような動き方で、そこからやる気のなさや練度の低さが見てとれた。例えば、攻撃を受けた際に効果的に対応できるよう、適切な距離を保ちつつ4輌程度の小隊単位で行動する、といったマヌーバー(Maneuver:機動)などは映像から確認できなかった。


 筆者がストライカー旅団戦闘団(Stryker Brigade Combat Team:ストライカー装輪装甲車を主軸として編成された部隊)に所属していた時に、ワシントン州のJBLM(Joint Base Lewis-McChord:ルイス・マコード統合基地)からYTC(Yakima Training Center:ヤキマ演習場)まで、カスケード山脈を越えて行くコンボイ・コマンダー(車列指揮官)の任務を何度も遂行した。もちろん、国内での移動なので接敵の可能性はゼロに等しかったが、民間車輌との交通事故や車輌故障、はぐれた際や道に迷った際の対応など指揮官が気を配る範囲は広く、責任は大きい。出発前にも全車輌が車検をパスしているか、必要な人数がCLS(Combat Lifesaver:戦闘救命士)の訓練を受けているか…など各種チェックしなければならない項目が多々あり、それらをすべてクリアしなければ出発は許可されない。このように、装甲車輌によるコンボイというのは立派なミリタリー・オペレーションのひとつであり、気軽なドライブ感覚では指揮官は務まらない。


 ロシア軍も「まさか装甲車輌20輌以上のコンボイ(準大隊、増強中隊レベル)に喧嘩を吹っかけてくるバカはいないだろう」とたかをくくっていたのかもしれない。実際問題、この規模の部隊にアンブッシュを仕掛けるのであれば、相当有利な地形に陣取るか、充分な対戦車兵器と対戦車地雷を敷き詰めたキルゾーンで行なうべきだろう。
 とはいえ、コンボイの車間距離はセオリー通り充分に開けなければならない。装甲車輌の基本車間距離は昼間が100m、夜間が50mである。だが、映像のロシア軍コンボイの車間距離はどう見ても20mから30m程度しかない。言うまでもなくアンブッシュを受け混乱した際に攻撃の回避が難しく、衝突事故の可能性も高まるなど非常に危険だ。また、敵のFOに発見され火力誘導された榴弾砲の砲弾(155mm砲弾など)が着弾した場合、車間距離を100m空けていれば被害は1輌のみで済む。だが、これだけ車間距離が狭いと被害は複数の車輌に及ぶだろう。
 次に警戒(Security)について。映像のロシア軍コンボイは一応各車砲塔の方向を振り分けているようには見えるが、左右への警戒は不充分なようで車間距離の取り方も相まって練度の低さが滲み出ている。なお、米陸軍の野戦教本FM 7-8 (Battle Drill #4)では、通常コンボイは以下のフォーメーション(隊形)で行なうのが基本である。

 

  1. 先頭車輌は砲塔を12時の方向に向け前方警戒し、路上に埋設された対戦車地雷やIED(爆発装置)の発見に努める。
  2. 2輌目以後、偶数の並び順の車輌は右側を警戒。進行方向に対し砲塔を2時の方向に向ける。
  3. 3輌目以後、奇数の並び順の車輌は左側を警戒。進行方向に対し砲塔を10時の方向に向ける。
  4. 最後尾の車輌は後方警戒。砲塔を6時の方向に向ける。
  5. なお、道路の幅によるが車列は1列の縦列隊形ではなく図①のようにジグザグのフォーメーションが望ましく、道路中央でなく路肩付近を走行する。道路の幅が狭い場合は図②のように1列縦隊となるが、前後左右の警戒方法は同じ。

 

   図① コンボイにおけるジグザグのフォーメーション(Illustration:FM 7-8)

 

   図② コンボイにおける1列縦隊のフォーメーション(Illustration:FM 7-8)

 

 以上が基本だが、筆者がもしこのコンボイの指揮官だったら、少し違った命令を出す。車列進行方向の左側はオープンで見晴らしもよく、遮蔽物もないので警戒は最小限でいいが、右側は雑木林(Tree Line)で樹木が生い茂り、アンブッシュを警戒すべき地形だ。よって「先頭車輌と最後尾車輌以外は右側Tree Lineを警戒」という指示を出すだろう。映像を見ると撃破された2輌目は砲塔を右側に向け、後続車輌は一応交互に左右へ砲塔を向けているが正面に向けている車輌もあり、結局右側Tree Lineに対する警戒が不充分な状態でアンブッシュを受けることになったようだ。

 

米陸軍ハンヴィーのコンボイ(車列)の一例。写真では停車中のため車間を詰めているが、ルーフ上の機銃のターレットを各車異なる方向に向けて周囲を警戒している(Photo:U.S.ARMY)

 

ロシア軍コンボイの対応

 

 ロシア軍側の対応について述べる前に、まずひとつ確認しておきたいことがある。前述FM 7-8 (Battle Drill #4)はあくまで米陸軍の操典である、という点だ。ロシア陸軍にはロシア陸軍の操典があり、アンブッシュされた時の対応も米陸軍のそれと同一であるはずもなく、同じにする理由もない。ただし、絶対にしてはならない行動はある。それが3、4、5輌目の車輌が取った行動だ。

 

 

 映像を見ると、第2回で解説したようにウクライナ軍側のNLAW(ボフォース製の対戦車ミサイル)によるトップアタックで2輌目の戦車が撃破された際、この3、4、5輌目の車輌(歩兵戦闘車および装甲兵員輸送車)がパニックに陥り、特に4、5輌目はビビって反対側(画面右側)の路肩へと退避。3輌目は反撃しないうちにLAW(Light Anti-tank Weapon:AT-4やRPG-7など歩兵携行式の軽対戦車兵器)か何かの直撃を受け、退避している。その行動は統率がまったくとれておらず、その証拠にディスマウント(下車)した兵士を轢きそうになっている(実際に轢かれた兵士もいたのではないだろうか)。

 本来であればこの3輌はその場に踏み留まり、CSW(車載機銃)をアンブッシュサイトに向けて一斉射撃し、ディスマウント(下車歩兵)は車輌を遮蔽物にして応戦すべきであった。もし、退避した先の路肩側に対戦車地雷が埋設されていたら、全員が吹っ飛ばされていただろう。

 「そんなの恐くてできないよ!」という声が聞こえてきそうだ。なお、前述のように筆者が経験した戦闘(アフガニスタンでコナール川の対岸からタリバンのアンブッシュを受けた)では、自身の車輌に敵弾が着弾する状況下でもハンヴィーのルーフに搭載されたMk19グレネードランチャーを、敵が撃ってくる方向に対して撃ち続けた。このようにFM 7-8 (Battle Drill #4)に記載された行動が訓練通りにできたからこそ、私は今も生きていられるのだと確信している。それから無責任なことを言うようだが、敵の弾が当たった時は、当たった時である。そんなことを気にしていたらこんな商売はやっていられないし、結局のところ野戦教本に従いつつ臨機応変に行動することが、もっとも生存率を高めることは間違いのない事実である。

 

ロシア陸軍のBMP-2歩兵戦闘車。乗員3名+歩兵7名が搭乗。主武装として30mm機関砲と対戦車ミサイル、副武装として7.62mm機関銃などを持つ(Photo:笹川英夫)

 

こちらはロシア陸軍のBMP-3歩兵戦闘車。乗員3名+歩兵7名が搭乗するが、車体はBMP-2より大型化。100mm低圧砲、30mm機関砲、そして7.62mm機関銃×3など重武装を誇る(Photo:笹川英夫)


 映像では見えなくなっているが、歩兵戦闘車と思われる8輌目と9輌目は北側(画面上側)からフランク(敵の側面を突く)しなければならない立場にありながら、直射も受けてないのに早々に路肩へと退散しているようで、まったくもって話にならない。
 よかったのは6輌目と7輌目(映像では見切れている)の戦車だ。その場に留まり、敵方向に装甲がもっとも厚い戦車の正面を向けていた。LAWと125mm戦車砲の撃ち合いだ。何も恐がることはない。歩兵が携行できるレベルのLAWではそうそう戦車の正面装甲をぶち破ることはできず、戦車側に分がある。おそらくこの2輌が放つ125mm弾によって、アンブッシュ側には相当な被害が出たはずだ。双方のBDA(Battle Damage Assessment:戦闘損害評価)を知りたいのは、筆者だけではないだろう。

 被弾せず直進を続けた1輌目の戦車(車列の先頭)が、Tree Line南側(画面下側)からフランクしなかったのは正解だ(ただできなかっただけなのかもしれないが)。フランクできる場所があるにはあるが、第2回で説明したように、そこはガソリンスタンドだからである。もしガソリンスタンドからフランクし、対戦車兵器が着弾しようものなら一瞬で火だるまになる可能性が高い。だからこのような場合はフランクしてはならないのである。映像には出ていなかったがこの1輌目と、撃破されつつも前進し続けていた2輌目の戦車がこの後どのような行動をとっていたのか、非常に興味深いところではある。

 

まとめ

 

ウクライナ戦争でもよく登場しているロシア陸軍T-72B3主力戦車の砲塔。従来のT-72の近代化改修型で、概ねT-90に準じた改良が施されている。砲塔上には乗員用のハッチや車長用サイトに加え、増加装甲やウィンドセンサーなどが並び複雑な形状だ(Photo:笹川英夫)

 

 アンブッシュされたロシア軍の行動だが、点数を付けるのは難しい。前述のように6輌目と7輌目の戦車には100点満点を与えたいが、路肩側に逃げて行った連中は0点どころかマイナス100点だ。総合的には間をとって30点と言ったところだろうか。「言うのは簡単だけど、実際に行動するのは難しいよ」という意見も聞こえてきそうだ。確かにその通りである。だからこそ、考えなくても身体が勝手に動くようになるまでBattle Drillを繰り返し訓練するのだ。筆者がアフガニスタンでアンブッシュされた時、全員がBattle Drillの通りの行動をとって、逃げ出すやつなど1人もいなかった。軍隊に限らず、何事においても基本がもっとも大事だということを確認して、3回にわたった「ウクライナの対戦車戦闘」を終わりにしたい。

 

TEXT :飯柴智亮

 

Twitter

RELATED NEWS 関連記事